悠rasiSaについて… お知らせ&独り言

悠rasiSaについて
 まずは、ご訪問ありがとうございます。
 当サイトは、男性と男性の恋愛をテーマに私の妄想を物語にしております。

 性的描写もあります。
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 現在、更新は亀の歩み……
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 それでもお付き合いいただきありがとうございます。
 皆様のご訪問を励みに、これからも書いて参りますのでお付き合いいただければ嬉しいです。

 はじめましての方も、毎度ありがとうございますの方も、ご感想聞かせていただければ幸いです。

お知らせ
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独り言

 

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春夏秋・・・冬  - 春 -  05

「なんで……そう思うんだよ」

 意図的にそらされた気がした視線が、簡単に俺を傷付ける。

「お前の好きな奴って誰?」

「お前だよ」

 俺の問いにかぶせる様に、答えた快晴は、俺の腰に腕を巻きつけ引き寄せた。

 どんな顔で答えたのか、それを見せまいとしたのだろうか?

 俺が好きだと言ったその唇は一体何度あいつに触れたんだろう?

 この身体は、一体何度あいつに抱かれたんだろう?

 次々と浮かぶ疑問は、すべてネガティブでそんな気持ちで、快晴に触れるのは怖かった。

 こいつを思い続ける自信までも否定してしまいそうで……。

「送るよ。地下鉄でいいか?」

「えっ?」

 俺の腰を抱きしめたまま、今にも泣きそうな顔で俺を見た。

「駅、分かんねぇだろ? 駅まで送るから」

 そう言いながら、快晴の頭を撫でた。

「…………抱かないのか?」

 ストレートすぎる問いは、痛々しいぐらいで、俺には快晴の心が掴めない。

「抱かない」

「なんで? 気持ち悪い?」

「誰も、そんなこと……言ってない」

「なら抱けよ」

 快晴の頭をギュッと抱きしめた。

「本気で、……本気でさ、俺が好きだって言うなら、待っててやる……。正直言うと、自信ねぇんだ、俺。お前を抱きながら、あいつはどんな風にお前に触れたんだろうとかって考えちゃいそうでさ。それに、お前はあいつの所へ帰るんだろ? そしら俺は、どしたらいいんだよ。お前の匂いが残るベッドでさ、一人寝るんだぞ?」

 吐露し始めた想いは、情けない本音ばかりで、止まらないし、抱きしめる腕は緩めてやれないしで、最低だ、最悪だと思うもう一人の自分の声は零れ落ちる涙に変わっていた。

 苦しいだろう快晴は、何も言わずに腰にまわした腕で、程よい強さで俺を包んでいた。

 不安と心地よさの合間を流れる沈黙を、壊すに壊せずお互い動けない。

 窓の外が闇に支配される前にあいつに帰さなければなんて、考えてしまう自分に苛立ちながらも、このまま奪ってしまうことすらできない。

 このまま奪えたらなら、快晴を俺のものに出来たなら、すべて失ってもいいと思うのに、そう出来ないのは俺の弱さ? それとも、快晴。お前の心が揺れてるからなのか?

「どくん。どくんって言ってる」

「聞こえる? 俺の心音」

 かき抱いた腕を緩める事なく問いかけた言葉に、快晴は頷きで答えた。

「どんな音?」

「俺が好きだって分かる音」

「どんな音だよ、それ」

 思わず笑った俺の背中を優しく快晴がさする。

「さぁ。俺の音、聞いてみる?」

 快晴を抱きしめる腕を緩め、腰を下ろし快晴と同じ高さになる。

 視線が快晴と交差する。

 視線が合ったかと思うと、どちらともなく自然とそらし、どちらともなくまた視線が合う。

 交わっては離れる、気恥ずかしさと、嬉しさ。

 自然とほころぶ頬も同じで、鏡でも見ているようだった。

「信じたい、お前の事」

「……俺が、はっきりさせなきゃだよな。ごめん」

「責めてるわけじゃないよ。……なんで、こうなったんだろうな」

 過去を責めたって仕方ない。

 それでもやっぱり、なんで? どうして? と思う心は止められない。

「信じたいから、待ってるよ。誰にも気兼ねせずにお前を抱きしめる事が出来る日が来るのを……」

 しがみつくように抱きついてきた快晴を腕に包みながら、どれだけ待てるだろうかと不安になる。

 天を仰いで、息を大きく吸う。

 片思いよりも苦しい両想い。

 抱きしめる相手が快晴だから、耐えられる。

 その先にきっと、心から笑いあえる日が来ると信じたいから。

 お前だから、お前だからなんだ、快晴。

 腕の中にいる快晴を、本当に手に入れられる日が来ると信じたい。

 信じたいんた。



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春夏秋・・・冬  - 春 -  04

 快晴が側にいる。

 それが何とも不思議な感覚で、夢でも見ているようなのに妙に現実感があって……って現実なのだから当たり前なんだけど、言葉にし難い感情がぐるぐると胸をかきまわしていた。

 人であふれかえる清水の舞台の端へ移動したいらしい快晴は、俺の手をぎゅっと握る。

 はぐれまいとしての単純な行動なのかもしれないが、そんな行動にも疑念を抱いてしまう。

「なんか、すげー人ばっかでよくわかんねぇな」

「あー、そうだな」

 笑みが俺を捉えても、それは消えない。

「やっぱ俺、人ごみ苦手だわ」

「なら、他行くか?」

「だな。あー、やっぱなんか食いたいなぁ。腹の虫がさ、さっきからうるさくって」

 腹をさすりながらハニカム顔はやっぱり愛しい。

「少しあるけど、俺んち来るか? 大したものは作れないけど、なんか作ってやるよ」

「まじで? お前、料理とかすんだ。なんか意外だな」

「大したもんつくれねぇけどな。で、どうする?」

「お前の手料理食ってみたい」

「じゃ、行きますか」

 結局、清水の舞台の端へ移動することなく、人ごみを抜ける。

 俺の手は、快晴の手の中にあって、振り払う事も、握り返す事も出来ずに、ただ快晴を感じていた。

 家へと向かう最中の快晴は、不自然なくらいよくしゃべった。

 別に無口な奴って訳じゃないけれど、何かを誤魔化しているように俺には見えたんだ。

「なぁ、快晴」

「うん?」

「マジで、俺んちでいいの? どっか店入ってもいいんだぜ」

「なんで? 手料理食わしてくれんだろ?」

「マジでそんだけだって思ってる?」

 困惑したような快晴が、俺を拒んだように思えて、答えを聞かずに歩いた。

 ただ好きなだけなのに、だからこそ触れたいと思うだけなのに、その事が快晴をこんな顔にさせてしまうんだ。

 歩き続ける道は、果てしなく遠いように思えたけど、それでも目的地には当たり前だけど、辿り着く。

 鍵を鍵穴に入れながら、振り払いきれなかった快晴の困惑顔が浮かんだ。

「やっぱ、どっかで食おう」

「なんだよ、急に。自信無くなったのか? 多少まずくったって食えるよ。そんくらいは腹減ってんだし」

「そうじゃねぇよ」

 小さな声で反論しながら、鍵を回す。

 開けたドアを快晴が通り抜ける。靴を脱ぎ、部屋へと入っていく。

 それはやっぱり、現実味がなく、これは夢なんだと思ってしまう。

「何やってんだよ、早く入れよ。腹減ってんだよ、俺は」

 初めて来たくせに、勝手知ったる我が家のごとく、ベットを背に、ローテーブルの前に座る。

 そんな快晴を無視して、俺は鍋に水を張り、冷蔵庫の余り物を物色しながら、何を作るかを考える。

 ベーコンと野菜を取り出し、炒め始めると、いい香りが漂ったのか、その香りに吸い寄せられるように快晴が近付いてきた。

「狭いキッチンなんだから、向こうで待ってろよ。邪魔だ」

「わりぃわり。でも、うまそうな匂いしてっからさ、腹の虫がね」

 と、俺の手元をのぞく。

「あちっ、あっ、マジうまっ」

 素手でまだ塩コショウすら味付けられていないキャベツを、フライパンからすくい上げ、快晴はつまんだ。

「お前、こんくらいで美味いとか言ってんなよ。味付けはこれからだっつうの」

「楽しみだなぁ」

 戻っていく快晴の無邪気さに、また現実味が薄れてく。

 少しゆで過ぎてしまったパスタをフライパンに入れ、野菜スープと絡ませる。

 何も考えずにスープパスタにしてしまった為、盛り付ける皿がない事に気付いても後の祭り。

 鍋敷きとフライパンと二人分の箸をもち、快晴の向かいに腰掛けた。

 俺が腰掛けると同時に、正座に座り直した快晴は、俺から箸を奪い、勢いよく食べ始めた。

 黙々と、空腹を満たすためだけに口へと運ばれていくその姿は男っぽくて、俺は本当に男に惚れたんだなぁと、改めて他人事のように感じていた。

「美味い!」

 綺麗にたいらげて、本当に美味そうに言う。

「それは、どうも。初めて人に食わせたから、ちょっと緊張したよ」

「まじで? めちゃめちゃ美味かったって。そっか俺、初めてなんだ」

 何がそんなに嬉しいのか、ニコニコと膨れた腹をさすっている。

 そのまま床に大の字に横になり、大きく息を吐きながら、もう食えねぇと呟いた。

 そんな快晴を微笑ましく思いながらテーブルとキッチンを片付ける。

 暗くなり始めた部屋の明かりをつけた。

 もうそろそろ、快晴をあの男に帰さなければならないんだ。

 スポンジをギュッと握りしめ、泡にまみれた手を見つめながら、そんな事を冷静に考えている自分がいた。

「なぁ、快晴」

「うん?」

 眠いのか、少しかすれた返事。

「あれさ、やっぱやきもちだよな」

「あれって?」

 もぞもぞと起き上がる気配。

 蛇口をひねり、泡を落とす。

「俺が他の奴と仲良くしてんの見たくないってやつ」

 返ってこない反応に、俺の心臓は鼓動を速めた。

 ベッドを背にもたれる快晴に近付く。

 強張ったような、快晴の視線が俺を見つめる。

 快晴の隣に跪く。

 ゆっくりと快晴はまぶたを閉じた。

 そんな快晴を俺は、ギュッと抱きしめた。

「惚れた奴とキスする時に、そんな怯えた顔すんの?」

 強張った身体と迫るタイムリミットに、俺は耐えられなくなっていた。

「これっきり……なのか?」



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春夏秋・・・冬  - 春 -  03

 店を一歩出ると弘明は目の前にいて、微笑む顔に胸がドキンと跳ねた。

「腹は、減ってない?」

 その優しい口調だけで、まだ俺を好きなんだと伝わってくる。

 それは妙にくすぐったく響いて、胸の中がゾワゾワとした。

 胃のあたりを軽くさすりながら、「そうだなぁ」と言った俺の手に、弘明の手が重なる。

 その事に一番に驚いたのは俺の胃だ。

 大きく、グーーッと響いた音に、二人して笑う。

「じゃ、なんか食うか!」

「食いもん屋から出てきたばかりのやつの会話じゃないな」

「ほんとだな」

 弘明が笑うから、俺も笑う。

 弘明が嬉しそうだから、俺も嬉しくなる。

 弘明の頬がさらに上がるから、俺の頬も上へ上へと上がっていく。

「ちょっとあるけど、うまい店あるんだ。そこでいいか?」

「あー、お勧めがあるなら任せるよ」

 歩き始めた弘明の後ろを歩く。

 横に並んで歩くのは、なんとなくもったいない気がして背中を見つめる。

 こいつの背中ってこんなに広かったっけ? なんて考えながら見つめる視線が、いつの間にか熱を帯びている事に気付いて、気恥ずかしくなる。

 俺は、いつだって求められるばかりで求めてこなかった。

 だからだろうか?

 求める事が、欲しいと思うことが、こんなに気恥ずかしいなんて知らなかった。

 こんなに素直な感情が沸き上がるのに、この背中にしがみつく事が出来ないのは、俺自身に原因があると、よく理解しているつもりだ。

 それにしても、久々に視界に映った弘明は想像以上にいい男に見える。

「ほんの数カ月じゃんか……」

「うん? なんか言ったか」

 つい零れた声に、優しい顔で振り返った弘明に、意味もなくホッとする。

 発情期の犬が、しがみつけるもの全てに腰を振るかの様に、弘明の一挙手一投足に胸が躍る。

「いや、別に」

「そうか? もう少しだから。まじ美味いんだぜ。大学の先輩の紹介で通うようになったんだけどさ。今じゃその店長の家に厄介になろうかって勢いでさ」

 ハニカんで見せたその顔が妙に色っぽくて、ふつふつと湧き上がる、言葉にし難い感情が俺を支配した。

 俺が今、こんなにお前だけに支配された感情を持て余してるというのに、何故今、見知らぬ者の話を弘明は始めるんだ。

「飯はもういい」

 足を止めてそう言い放った声は、子供じみた苛立ちをそのまま音にしたような声だった。

 それでも、言葉は止まらなくて、口調も声音も変える事が出来ずに言葉を続けた。

「俺がいんのに……、他の奴なんかいらないのに…………。もういい。どっか観光でもして帰る」

「えっ? いや、でも……観光って……そんなの飯食ってからでもよくないか?」

「じゃいい」

「あぁ、じゃ、いこ。ほんともう少しだから」

「そうじゃねぇよ。もういいって言ってんの」

「え? えっ、ちょっちょっと待てって」

 呼び止める声を無視して、俺は来た道を引き返す。

「待てって!」

 弘明に肩を掴まれた時には二人して、息を切らしていた。

 いつの間にか、早足を通り越して駆け足になっていた事に気付く。

「一体どうしたんだよ。なに? なんで急に不機嫌?」

 はぁはぁと、息を吐きながら俺の肩を掴んでいた手に力が入る。

 もう逃がさないと言う意思がそこに見えた気がして、また弘明から逃げ出した俺に気付き、それを否定したくて声を荒げた。

「嫌なんだよ。嫌なんだ! 俺の知らない奴と、お前が仲良くする姿なんか見たくない。雄一とだってあんなに苦しかったのに、っ、……飯なんか、食えるかよ」

 掴まれた肩が痛くて、振り払おうと思えば振り払えるだろうに、それをしなかったのは、それをしてしまえばもう二度と、この手が俺を捕まえない気がしたからかもしれない。

「なんだよ、それ……。なんなんだよ、お前」

 そう言うと、弘明はその場にしゃがみこんだ。

「快晴。…………それってさ……それって、もう、相当好きじゃん。俺の事」

 頭をくしゃくしゃと掻き毟りながら、首まで真っ赤に染めた弘明を見つめる俺は、きっと弘明に負けず劣らず真っ赤に染まってる。

「う、うっさい。誰も、今そんな話してないだろ!」

「知ってか? 快晴。そういうの……」

 立ち上がり俺の左肩を右手で掴んだかと思うと顔を寄せ、耳元で囁いた。

「やきもちって言うんだぜ」

「ばっっっ!!!! だーーーーー、もう、そんなんじゃなぇよ、ばか! ほら、行くぞ」

「行くってどこに?」

 くすくすと笑いながら、歩き始めた俺の後を弘明はついてきた。

「しるか! そんなのっ」

 爆笑に切り替わった笑い声を後ろに聞きながら、俺も声を押さえて笑った。

 好きだって言うのは、とっくに認めてた。

 あの日から結局のところ何一つ変わってない。

 それでもこんなに気分がいいのは、お前が笑って俺が笑って、そんな風にいる事があの頃の俺たちの様だからかもしれない。

 何も考えず、弘明の隣にいられた俺は、一番俺らしかった。

 だから弘明を好きになったのかもしれないなんて、今頃気づいてる俺もまた、俺らしい。

 そうなんだよな。

 結局のところ、俺はお前といるのが一番幸せなのかもしれない。

 あぁ、どうやってそれをお前に伝えよう。

 颯太さん。

 あなたにも、この気持を分けてあげたい。

「なぁ、弘明」

「うん?」

「お前、まだ俺の事……」

「あぁ、大好きだよ」

 当たり前だと言わんばかりに胸を張って見せた弘明の姿を俺はきっと一生涯忘れないだろ。

 忘れたくないと、必死で見つめる俺の目が、弘明にどんな風にうつったのかも知らずに、俺はこの時間を噛みしめていた。



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友へ

阪神淡路大震災を経験した、あの日々の事を思いだす。
被災された方の気持ちを思うと、言葉にならない。

「情報が足りず、物資も足りず、それでも気丈な気持ちを保とうと言い聞かせている」
といいながら、苛立ちをぶちまけた後
「私、まともなこと言ってる? 非常識じゃない?」
と、心の不安定さをのぞかせた友人。
掛ける言葉もなく、一緒に泣くことしか出来なくてごめんね。

大丈夫!!!!
君はまともだ!
必死で堪えていたものが、少しこぼれたくらい受け止めてやる!!!

16年前、一緒に戦った仲間じゃないか。
顔晴れる。

それでも疲れたらいつでも頼っておいで。




多くの被災されたみなさんも、きっと必死で耐え、戦ってると思います。
私が出来ることは、わずかながらの募金とエールを送ることだけ……

あけない夜はないと信じて、顔晴りましょう!


桜木 悠

春夏秋・・・冬  - 春 -  02

 三月とは言えまだ肌寒い。厚手のジャケットを羽織り、アパートの階段を下りる。

 楽しい話題を次々と紡ぎだす楓の言葉に、笑ったり突っ込みを入れてみたり、高校時代には想像も出来なかった今がここにはあった。

 俺の事はきっぱりとふっきれたのだと言う楓は、その言葉通り今の恋人の話を嬉しそうに話す。

「それにしても、そろそろ飯にしないか? 言ってたパスタ屋ってまだなのか?」

「うん? う〜ん、もうちょっと……あっちの雑貨も見てみたいし……」

 ちらりと時計を確認し、なんとも歯切れの悪い返答で、何かを誤魔化している感は否めないが、まぁいっかと、そそくさと雑貨屋へと向かう楓の後を追った。

 そうして何を買うわけでもなく、幾つもの店を物色し、二時を目前にようやく、「お腹空いた〜」と、目的の店へと足を向けた。

 辿り着いた店は、周囲の街並みに馴染みすぎて、そこに店があると知らなければ通り過ぎてしまうんじゃないかと思うほどだった。

 しかし店内に入ると、もう二時を回っているのにもかかわらず、たくさんの女性客で埋め尽くされている。

 席へと案内してくれたモデル体型の女子受けしそうな男を筆頭に、目に映る店員はすべてそこそこイケてる男ばかりで、明らかにそれを目当てとした客ばかりの店内に、俺の存在はとても異質に思えた。

「楓さん。俺、ちょっと居づら……」

 言いかけた言葉を遮ったのは、トレイにグラス二つを運ぶ男がこちらに向かってくるのか見えたからだ。

「大丈夫よ、快晴も十分店員としてやってけるよ」

 笑いかけてくる楓と、テーブルにグラスを置く男の姿に、はめられたと確信し、大きく溜め息をつき、グラスの水を一気に飲み干した。

「どういうつもりだよ」

 どちらにというわけではなく言い放った言葉に、楓は「何が?」と、とぼけてみせ、店員の男は明らかに動揺した声音で、「ごめん」と小さく呟いた。

 成人式以来、メールも電話も何度となく交わし、何度となく会いたいと願った男の顔が、ほんの少し困ったように微笑んでいる。

 それは、反らせずにいる俺の視線に戸惑っているからなのだろうか。

「いい感じに見つめ合ってないで、注文いいかしら?」

 そそくさと注文し始めた楓と同じものを頼むと、男はその場を離れていく。

 その背中を見たら無性に呼び止めたくなって、伸ばした手が空を掴んだ。

「会いたかったなら、どうして素直にそう言わないの? 連絡取り合ってたんでしょ」

 行き場を失くした手でテーブルの縁を力強く掴む。

「あいつから何聞いたか知らないけど、お前に話す事は何もない」

「別に、何にも聞いてないよ。成人式に再会してまた連絡取り合ってるって事しか。今日、快晴をここに連れてきたのだって、私の独断。先崎君に何か頼まれたわけじゃないから、そこは誤解しないでよ」

 運ばれてきたサラダとスープ、幾つもの焼き立てパンを嬉しそうにどれにしようかと選ぶ楓に、もう返す言葉はなかった。

 聞きたい事は幾つもある。

 それでも、それを楓に問うたところで結局すべては自分に返ってくるのが見えてしまって、情けなさで胸がチクリと痛んだ。

 テーブルを掴んだままの手を見つめ、何処にも移せなくなった視界にパスタを運んできた店員の姿が映る。

 それが、弘明でないとわかると、ホッとした気持ちの中心に寂しさがぽつりと落ちた。

 それは、波紋のように胸に広がり、あげた視線は弘明を探した。

「先崎君なら、二時半で上がりらしいよ」

 パスタを口に運びながら、淡々と言った楓は、フォークとスプーンを皿に置き、袖をまくって時計を俺に向けた。

 時計の針は既に、二時半を回っていたが、だからと言って弘明を追って店を出る勇気は、俺にはない。

「はい、これお願いね」

 伝票を俺に向けて差し出しながら、楓は優しく微笑む。

 自分からは動き出せない俺を、楓はよく知っている。

「快晴が動かなきゃ、私も、先崎君も、たぶんお兄ちゃんも……、みんな動き出せないじゃないかな。だから、はい! これは私が食べておくわ」

 情けないなと思いながらも、ジャケットを羽織った。

「ごめん。ありがとう」

 言いながら、伝票を受け取り、早足でレジへと向かった。

 レジを打つ店員を横目に、店の外を窺うとそこには、弘明がいた。



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プロフィール

桜木 悠

Author:桜木 悠
オリジナルのBL小説を書いています。
遅筆ですが、気長にお付き合いいただければ幸いです。

胸が切なくなるような恋がしたい。
その想いを彼らに託しています。

だから、みんなには幸せになってもらいたい。
そうなれればいいなぁと思いながら書いています。

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